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反差別運動の原点に返るとは

一連の同和事業不祥事件から

在日コリアン人権協会ニュース liber〜リベール〜『在日コリアンの主張』
第122号(2006年8月25日発行)より転載
在日コリアン人権協会 副会長 徐 正禹

1、検証にあたっての原則的立場

 8月21日付け各紙朝刊で、大阪府八尾市の解放同盟幹部が恐喝容疑で逮捕されたとの記事が掲載された。飛鳥会事件の捜査が終了した直後であり、今後の成り行きが懸念されている。

 筆者は部落解放運動の当事者ではなく、したがってこの事件に責任をもって関わる立場にないことから、無責任に干渉することは許されない。しかし、一連の事件の本質がすべての人権運動に共通する課題を内包している<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>考えられることから、自らの教訓<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>するために論じる意義はある<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>思われる。  すでに「北口裁判」において、「エセ行為」の本質を言及しているが、ここでは個別事件に則してより具体的に検証したい。

2、事件の概要

 逮捕された容疑者は部落解放同盟大阪府連合会安中支部相談役で、NPO法人「八尾市人権安中地域協議会」の理事長<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>「八尾市人権協議会」の副会長他、同市の各種委員を兼務している。容疑者は、<b style="color:black;background-color:#ffff66">暴力団</b>とも密接な関係にあり、長年同市の建設工事の仕切り役として暗躍、解放同盟の肩書き<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>併用して、不正な利益を得てきたとされている。不正利得の内容は、現在明らかになっているものとして、長年同和地区内の公共工事に関して、事業費の3%を業者から協力金として徴収してきたこと、同地区内の市営墓地の利用者から、管理費<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>称して、不正な金を徴収してきたこと、市民病院の工事に傘下の業者を参入させるよう強要したこと等。さらに、これら不正事件に八尾市の職員が複数関与してきたことも指摘されている。また、業者からの協力金の授受を解放同盟支部の事務所で行なったとの報道もある。

 これらの報道が事実であれば、同支部の運動は、もはやカタストロフィ(究極的終末)に至ったといわざるを得ない。

3、大衆による選択

 筆者は数年前まで同地区に約35年間居住し、10年前までは地区内で在日コリアンの人権・地域運動を展開してきた。当然のことながら、同地区の解放同盟支部<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>は長年共闘関係を築いてもきた。そのような経緯から、筆者個人としても今回の事件は実に残念至極という他ない。

 しかし、あえて言うならば、いつかこのような結果になるであろうことは、関係者なら誰でも予測できたことである。にもかかわらず、なぜこのような最悪の結果を招いたのか。結論は至極簡単である。大衆が自ら選択したからである。同支部は、少なくとも筆者が共闘関係を構築していた当時(1975年〜1990年ごろ)は、現在のような状況ではなかった。児童手当、地方公務員一般職、国民体育大会、郵便外務員、指紋押捺等の先駆的運動は、同支部<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>の共闘なくして語ることはできない。それほどの先進的な闘いを展開してきた支部が、カタストロフィに陥ったのは、同支部大衆が、先駆的な闘いよりも同和事業の拡大<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>継続を選択し、それにふさわしい指導者(逮捕された容疑者)を選出したからに他ならない。筆者はその経緯を間近で見ながら、不安を抱いてきたものである。

4、大衆が活動家を放逐する

 ではなぜ大衆は、先駆的運動に替えて同和事業の継続を選択したのか。そもそも支部員<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>なった経緯が、同和事業の受益にあるからである。本来は、同和向け公営住宅の入居や解放奨学金等の受益者は要求者組合に組織されるのであって、解放同盟員ではない。同盟員は事業<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>は関係なく、自ら解放運動を担う自覚<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>行動力を持つ者のみが、その資格を得るのである。しかし、組織力イコール動員力という判断の下、要求者組合員イコール支部員となり、いわゆる「水ぶくれ現象」<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>呼ばれる状況がすでに1970年代から始まっていた。この時点で、すでに問題は始まっていたと考えるべきである。少数の活動家<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>圧倒的多数の事業要求者。しかし、ともに同じ資格を有する同盟員である。事業が順調に展開されていた時期、すでに矛盾は潜在化しており、事業が縮小傾向に入った段階で矛盾は一挙に露呈した。要するに圧倒的多数の事業要求者は、<b style="color:black;background-color:#99ff99">差別</b>撤廃を主<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>した運動に不満を強くし、事業のさらなる継続を組織に要求し、それにふさわしい指導者を選択するのである。事業を優先する大衆は、その指導者が右翼であり、<b style="color:black;background-color:#ffff66">暴力団</b><b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>密接な関わりを持とうとも、同和事業によって自らの欲望を満たせてくれるのであれば、これを容認するのである。

 かくして、先駆的運動を担う活動家は、大衆から放逐され、今回問題<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>なった容疑者のような人物が、指導者として選出されたのである。まさに必然の帰結である。筆者にとって驚きだったのは、このような選択を行なった大衆が、必ずしも中高年のみならず若い世代にも多く見られたことである。容疑者はたしかに、見た目にも、いかつい風貌であるが、これが「頼りがいのある指導者」として若い世代から支持を得る姿は、暗い時代の流れを想像させるに十分である。筆者が表現したカタストロフィの本質は、まさにここにある。

5、他山の石とせず、原点に返る

 冒頭、筆者が今回の問題が、すべての人権運動に共通する教訓を内包している<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>表現したのは、他ならぬ我々自身もまた、同様の苦い経験をしてきたからである。1995年、1997年、2000年、2002年<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>度重なる組織分裂を生じさせたのも、その本質は運動<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>事業、双方の衝突であった。運動の成果として生まれた事業を担う人々は、事業が目的となり運動を軽視する。他方、運動を担う人々は、運動が目的であることから、事業を運動の手段として位置づける。しかし、運動を理解・支持する人より事業を理解・支持する人のほうが圧倒的に多いため、運動は常に苦難を強いられることになる。

 解決は容易ではない。人間の欲望が関わるからである。しかし、ひとつだけ確かなころは、運動<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>は本来「手弁当」で行なうものであるということである。これだけは、時代がいかに変わろうとも不偏の原則であり、原点である。この原点にもう一度返り、そこから運動の建て直しを図ることが求められている。

 日本の人権運動は、我々がそうであったように、部落解放運動の影響を受けながら進んできた。当然のこととして、その影響は負の部分をも例外<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>しない。無責任な批判は許されない。それは我々自身の課題でもあるからである。

 部落解放運動はこれまでに経験にない苦難に遭遇している。しかし、筆者のつたない経験によっても、部落<b style="color:black;background-color:#99ff99">差別</b>はいまだ深刻である<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>考える。未曾有の苦難を乗り越え、ぜひとも新たな運動の地平を構築してほしい<b style="color:black;background-color:#a0ffff">と</b>願う。その上で、新たな水平関係の共闘を築くことを切に望むものである。